四国大学 短期大学部 幼児教育保育科
准教授 姫田 知子
博士:学校教育学 専門:臨床発達心理学
「はじめてママ」を支えよう
手を伸ばす支援から手を伸ばさなくてもある支援へ
近年、子育て支援施策の推進により、子育て中の家族を支えるための場所・人・コトは多く見られるようになりました。それらの情報を敏感にキャッチし、積極的に利用できる母親の場合は支援になりますが、そうでない母親にとっては十分な支援体制が整っているとはいいにくい現状にあります。つまり、どれだけいい支援や制度があっても、支援を求めるかどうかを本人の判断に委ねてしまうと、支援につながってほしい人に届かないということになりかねないのです。
今回の初産婦を対象にした調査研究では、子どもの月齢によって育児に対する感じ方や求めるサポートが異なるという知見が得られました。
「助けてほしい」と手を伸ばす先にある支援も大切ですが、手を伸ばさなくてもいつの間にかそこにある、求めたつもりはなくても日常生活に組み込まれている、そういう支援が、今求められているのです。
初産婦における子どもの月齢に応じた支援ニーズの検討
~育児感情・育児環境との関連~ 姫田知子 准教授
日本心理学会第87回大会(2023.9.16)発表研究から引用
出産後、子どもの成長とともに
負担感は増し、育児肯定感は低くなる
今回の調査では月齢が1歳に近づくほど育児の負担感は高くなり育児肯定感は下がる傾向が確認された(図1)。子どもの成長は嬉しいと思う反面、子育ては楽になるわけではなく、むしろ少しずつしんどさを抱えやすい状況になっているということだ。
しかし、生後半年までの母親については、育児協力の有無によって負担感が左右されるようだ。
育児協力がある母親と育児協力のない母親を比較した場合、育児に協力的な環境の方が母親の負担感は低くなっていた(図2)。子どもが低月齢のうちは、子どものための場所にわざわざ出かける機会は少なく、同居している家族のサポートの有無がダイレクトに負担感に影響しやすいことが示唆される。
家族以外からの
サポートも必要な時期
半年を過ぎると、子育て支援センターなどに出かける機会も増える一方で、育児協力の有無によらず母親の負担感は高まることが確認された。つまり、家族に加え、家族以外からの積極的なサポートにより、肯定感を高めることが必要な時期だといえる。
第1子を子育て中の母親に対する
ポジティブサポート例
(自由記述より)
●調査研究の方法
0~1歳までの各月齢について初産婦の母親100人ずつを対象に2023年1月インターネット調査を実施。回収人数1,432人。
※本研究は科学研究費助成事業(課題番号:22K13686)の補助を受けて実施
はじめてママがどのような育児協力を嬉しいと感じるのかは、自由記述の中から拾い出すことができる。
パートナーからの「うれしいサポート」は日常の中で誰もがあたりまえにうれしいと感じることで特別なことではない。特に「ありがとう」という感謝の言葉が支えになり、負担感の軽減につながるのではないかと推測される。
「嫌なサポート」については個人差があり多岐に渡っている。特に産後の母親は特有のナーバスさを抱えており細かい配慮が必要な時期であることが分かる。
家族(義父母・実父母)、専門家からの「うれしいサポート」は子どもの成長を一緒に喜んだり、いたわりやほめ言葉をかけてもらったりすることである。試行錯誤しながら子育てをしている母親にとって、ポジティブな評価は母としての自信につながると考えられる。
また、今と昔では子育て環境、子育ての常識、子育て観も変化している。「我が家の子育て方針を尊重してほしい」という母親の声もあり、それぞれの家族に寄り添ったサポートが求められている。
配偶者・パートナー
*感謝やねぎらいの言葉 *愛情表現
- 「ありがとう」は魔法の言葉!くりかえし言葉で伝えよう
*家事・育児の分担
- 「お手伝い」「サービス」ではなく、
チーム家族として“一緒に”する姿勢が大切
家族(義父母・実父母)
*家事・育児の協力
- 親しき仲にも礼儀あり
(事前に連絡・約束は守る
相手の都合や好みを考える)
- 欲しいのは口出しではなく協力
- 夫婦の子育て方針を尊重しよう
専門家
*具体的なアドバイス
*気持ちや状況への寄り添い
- 他の人と比べないでほしい
- 多様な価値観をうけとめて
家族/専門家に共通
*対ママ・対子どもへのポジティブな評価
- おつかれさま、大きくなってるね ポジティブな評価=母親としての自信を高める
みんなでいっしょに!
*いたわりの言葉 ◎大丈夫、がんばってるね
*身体へのいたわり ◎休息・睡眠の確保、マッサージ
*ご褒美 ◎プレゼント(スイーツ、料理、子どものモノ、時間)
今回の調査研究結果の考察
近年の家族形態や女性の社会進出といった子育て環境の変化は、多様な働き方や生き方の選択肢をもたらす一方で、子育て場面では、乳幼児と関わる経験の少なさや地域とのつながりの希薄化により、子育て中の母親に孤独と負担を強いているといった現状がある。
特に、初産婦は経産婦に比べて育児不安や親としての自信が低いということ、在宅育児の場合、社会からの孤立を感じやすいということが指摘されているが、母親が必要性を感じていない/効果的でない場合、支援を押しつけに感じ、傷つくことにもなりかねない。
さらに、一度でも不快に感じるサポートを体験した場合、その後、困り感をもったとしても支援につながりにくくなる可能性が予想されるため、母親のニーズに合わせたサポートにより、支援に対する前向きな認識を促しておくことが必要である。
今回の調査研究では、初産婦が安心して子育てができる環境を整えるために、周囲がどのようなサポートをすればよいか具体例を示した。ナーバスになりがちな生後1年こそ、「助けてほしい」と言わなくても安心して子育てができるよう、周囲ができるサポートを意識して関わることが大切である。